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名古屋地方裁判所 昭和59年(ワ)1677号 判決 1992年12月25日

愛知県瀬戸市穴田町九七〇番地の二

原告

株式会社オプトン

(旧商号・株式会社中央電機製作所)

右代表者代表取締役

與語照明

右訴訟代理人弁護士

水野正信

愛知県春日井市味美町二丁目一五六番地

被告

東洋電機株式会社

右代表者代表取締役

松尾隆徳

右訴訟代理人弁護士

高木修

森茂雄

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙物件目録記載の内容の機能を持つ制御装置を製造し、販売し、若しくは頒布し、又は第三者をして製造させ、販売させ、若しくは頒布させてはならない。

2  被告は、原告に対し、金一億五一〇〇万円及び内金六六〇万円に対する昭和五九年三月一六日から、内金一九四〇万円に対する昭和六〇年三月一六日から、内金一三四〇万円に対する昭和六一年三月一六日から、内金一四八〇万円に対する昭和六二年三月一六日から、内金一九〇〇万円に対する昭和六三年三月一六日から、内金二六二〇万円に対する平成元年三月一六日から、内金二二六〇万円に対する平成二年三月一六日から、内金一三二〇万円に対する同年一〇月一日から、内金六四〇万円に対する平成三年四月一日から、内金九四〇万円に対する平成四年四月一日から、それぞれ支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第2項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

原告は、各電気製品の製造、販売等を目的とする株式会社であり、被告は電気機器の製造、販売等を目的とする株式会社である。

2  本件制御装置の開発

原告は、昭和五一年春ころ、株式会社日産ディーゼル弘済会(以下「弘済会」という。)から、原告の製品である改良型高性能汎用シーケンサ「ロジエース」を数値制御式パイプベンダーに応用できないかとの引合いを受けたことから、弘済会からパイプの三次元曲げ加工に関する技術資料等の提供を受けた上、同年八月ころ、原告の多数のノウハウを結集して、別紙物件目録記載の機能(以下「本件機能」という。)を有するパイプベンダー用CNC制御装置(以下「本件制御装置」という。)を開発した。

3  被告との製造委託契約及び本件約定

原告は、昭和五一年八月下旬ころ、被告との間で、原告が被告に本件制御装置の製造を委託する契約を締結したが、その際、原告のノウハウの秘密保持のため、原被告間で、被告は本件機能を有する一切の制御装置について原告に無断で第三者に対して製造、販売しない旨の合意をした(以下「本件約定」という。)。

なお、原被告間に本件約定が締結されたことは、被告が昭和五三年秋ころ雑誌「電子技術」に被告名で本件制御装置の広告を掲載したことについて、被告が被告の取締役システム部長伊藤正秋(以下「伊藤部長」という。)名義で原告に誓約書(以下「本件誓約書」という。)を差し入れ、本件約定の存在を確認すると共に、被告の右背信行為を謝罪していることからも明らかである。

4  被告の債務不履行

被告は、本件約定に反して、昭和五八年八月から平成四年三月三一日までの間に、千代田工業株式会社に対し、原告に無断で本件機能を持つ制御装置(以下「千代田型制御装置」という。)七五五台を、別紙「パイプベンダー用CNC制御装置販売台数一覧表」記載のとおり、製造、販売し、前記ノウハウ、秘密を第三者に漏洩した。

5  原告の損害

被告の千代田型制御装置の製造販売によって原告が被った損害は、以下のとおりである。

(一) 本件制御装置の販売価額は一台当たり平均二〇〇万円であり、その純利益は販売価額の一〇パーセントである一台当たり二〇万円を下らない。

(二) 被告の千代田型制御装置の製造販売によって、原告の製品である本件制御装置の販売数量の減少をきたしたところ、その減少の数量は千代田型制御装置の販売台数七五五台相当である。

(三) したがって、原告の損害は、本件制御装置一台当たり二〇万円、七五五台分で一億五一〇〇万円である。

6  結び

よって、原告は、本件約定に基づき、被告に対し、自らすると第三者を介するとを問わず、本件機能を持つ一切の制御装置の製造、販売、頒布することの禁止並びに被告の債務不履行により被った損害として請求の趣旨記載のとおりの損害額及びこれに対するそれぞれの製造販売の日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、原告が「ロジエース」なる製品を取り扱っていたことは認め、原告が本件制御装置を開発し、それに関するノウハウを有することは否認し、その余は知らない。

3  同3の事実のうち、原告から被告に対し本件制御装置の製造を依頼したこと及び伊藤部長が原告に本件誓約書を差し入れたことは認め、その余は否認ないし争う。

4  同4の事実のうち、被告が原告主張のとおり千代田型制御装置を製造、販売したことは認め、その余は争う。

5  同5の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件約定の不存在

(一) 原告は、昭和五一年当時、本件制御装置に関する漠然とした構想は持っていたものの、これを製品化するコンピューター関係の技術を持っていなかったため、制御装置の開発に実績のあった被告に本件制御装置の開発を依頼した。そして、被告は、原告代表者から口頭でその要求する仕様の説明を受けて、別紙1記載のような過程を経て本件制御装置を製品化したものであって、本件制御装置は被告の開発に係るものである。したがって、原告の主張するように原告において本件制御装置に係る独自のノウハウを有していたものではない。

また、原告は本件制御装置が原告のノウハウの結集であるかのように主張するが、本件制御装置が有するとされる本件機能の内容及びその実現方法はいずれも公知の技術であって、別途に本件制御装置の開発に係る原告のノウハウが存在するものではない。

(二) 以上のように、本件制御装置は被告の開発に係るものであり、本件制御装置に関する原告のノウハウも存在しないのであるから、原被告間において右ノウハウの秘密保持を内容とする本件約定を締結することはあり得ないことである。

(三) なお、本件誓約書は、雑誌に掲載された被告の広告中に被告技術の実績として「パイプ加工演算制御」との項目があったことから、原告が被告には本件制御装置を第三者に販売する意図があるのではないかと曲解し、被告に苦情を申し立てたことに対応して、有力な取引先である原告の意向を尊重する意味から、今後の両者の協力関係の保持を確認するため、伊藤部長が独断で差し入れた紳士協定的文書であって、原告主張のような本件約定の存在を確認する文書ではない。

2  公序良俗違反等の抗弁

本件約定は、仮に存在するとしても、それにょって被告の負担する義務内容は不特定ないし広汎に過ぎること、原被告間の本件制御装置製造に関する取引が既に終了していること、本件制御装置の開発には少なからざる被告の努力があったことを併せ考慮すると、不当に原告の営業の自由を拘束するものであって、公序良俗に反するものとして無効とすべきである。また、仮にそうでないとしても、右事情からすれば、原告が被告の債務不履行責任を問うことは権利の濫用に当たる。

3  被告に債務不履行がないこと

仮に、本件約定が存在し、かつ、これが有効であるとしても、被告の製造、販売に係る千代田型制御装置は、千代田工業の要請に応じて被告が千代田工業において開発済みの技術を応用して独自に開発した制御装置であり、本件機能とは異なる内容の制御装置であるから、被告がこれを製造販売したとしても、本件約定に反することにはならない。

四  被告の主張に対する認否

すべて争う。

第三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これらをここに引用する。

理由

一  当事者について

請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  本件制御装置の開発の経緯について

1  請求原因2のうち原告が「ロジエース」という製品を取り扱っていた事実、及び同3のうち原告から被告に対し本件制御装置の製造を依頼した事実は、当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実及び証拠(甲一、甲二の一、二、甲一〇、一一、甲一二の存在、甲一四、一五、甲二五の一、二、甲二六、四三ないし四五、乙一ないし六、一四ないし一六、乙一八の一ないし五、乙一九、二八、三一、三三、証人伊藤、原告代表者、被告代表者)によれば、以下の事実が認められる。

(一)  原告は、昭和三八年一一月の設立以来、他社からの受注により自動制御盤、配電盤等の設計製作を行ってきたが、昭和四五年ころからはトランジスター、IC等の技術を活かした自動制御盤の開発を試み、昭和四六年には汎用制御装置「ロジエース」を完成し、続いて昭和四八年理水化学と共同して水処理装置業界用汎用制御装置「リスオート」を開発した。右のロジエースは、ダイオードマトリックス方式のシーケンサ(汎用順序制御装置)であり、また、右のリスオートもICや半導体を組み込んだマトリックスカードを用いた制御装置であったが、いずれもいわゆるマイクロプロセッサを用いたものではなかった。

(二)  他方、被告は昭和二二年の設立以来、変圧器、電力制御用配電盤の製作等を行ってきたが、コンピュータのCPU(中央処理装置)機能をLSI(大規模集積回路)化したいわゆるマイクロプロセッサに着目し(米国インテル社によって最初の四ビットマイクロプロセッサが開発されたのは昭和四六年、八ビットのそれが開発されたのは昭和四七年であった。)、技術者を米国インテル社に派遣するなどして技術を習得すると共に、マイコン応用プロジェクトチームを編成し、昭和四九年九月には八ビットマイクロプロセッサを使用したシーケンサ「シーケルファイブ」を開発した。同製品はマイクロプロセッサを使用することにより、シーケンス制御のほか計算制御を行うこともでき、自動機械、各種工作機械の制御に利用できるものであった。

被告は、昭和五一年四月からは、右制御装置の販売拡大のため、被告社内にシステム部を設立し、いわゆるシステムハウス業を開始し、他社の依頼を受けて自動制御装置のハードウェア及びソフトウュアを開発する業務を行うようになった。

(三)  原告と被告の関係は、昭和三九年ころから原告が被告の外注工場としての仕事をしたことがあり、また、昭和五〇年原告社内の労働争議で原告が活動できなくなったため、原告が他社に販売した制御装置について、同年六月から昭和五一年七月までの期間、被告がその保証を引き受けたこともあった。

(四)  原告は、昭和五一年春、東京晴海で行われた自動制御機器展に改良型高性能汎用シーケンサ「ロジエース」を出品したところ、日産ディーゼル工業の関連会社である弘済会の関係者から、これを用いてパイプの曲げ加工を行う工作機械(パイプベンダー)の制御ができないかという話があった。原告にはパイプの加工作業及びパイプベンダーについての知識経験はなかったが、原告代表者が何度も弘済会の工場を訪問し、パイプの加工技術についての説明を受けると共に、同社から右技術についてのノウハウの提供を受けて、弘済会で必要とする機能すなわち自動車のブレーキチューブ用の外径約五ミリないし一五ミリという細いパイプを三次元の複雑な形に加工する機能を有するパイプベンダーとこれに接続する数値制御装置(CNC制御装置)を一体化してシステム化したCNCパイプベンダーを開発することとした。

(五)  数値制御方式によるパイプベンダーそのものは、昭和四四年に米国パインズ社が発売し、また、国内でも昭和四五年に千代田工業が川崎重工株式会社との業務提起によって開発していたけれども、弘済会の要求に応じて右のような細いパイプを複雑な形に加工するためには、パイプが当たる曲げヘッドを極力小さくする必要があったので、原告は、昭和五一年八月ころまでに小型高剛性の外部リンク式伝達方式の曲げヘッドを開発し、これを用いたパイプベンダーの機械本体の製作を株式会社名西マザックに依頼した。これは、従来の油圧式のパイプベンダーすなわち曲げるための動力をシリンダーとチェーンの組合せによって曲げ主軸を回す方式によるものに比べて、チェーンを排除したため制御が安定するという点と曲げヘッドを小さくできるという点において優れているものであった。

(六)  右のパイプベンダーと組み合せる自動制御装置については、原告は、前記(三)のような関係にあった被告にその開発を依頼することとし、同年四月末ころか五月ころ、被告に協力を依頼した。しかし、当時の原告の社内にはマイクロプロセッサを用いた制御装置に関する技術者はおらず、どのような制御装置を製作して欲しいのかということを示す仕様書も作成されていなかったため、まず、原告代表者が黒板に概略の絵を書きながら装置の概要を被告の担当社員に口頭で説明し、被告の担当社員が右説明に基づいて「マイコンベンダー制御装置電気仕様書」として仕様書の形にまとめ、これに基づいて本件制御装置の開発が進められた。

(七)  マイクロプロセッサを用いた制御装置を開発するためには、右のような仕様書に基づいて、これを分析検討してシステム設計を行い、更に、ハード設計、ソフト設計、総合デバッグ、実機シミュレーションという過程を通じて検討を重ね、必要な修正を行って最終製品に仕上げていくことが必要である。本件制御装置については、被告が、右(六)の仕様書及び原告との打合せに基づいて、右の開発作業を進めた。

(八)  原告から被告に対する本件制御装置の製造の発注が書面によってされたのは同年一〇月二五日であって、その一号機の価格は二五〇万円とされた。なお、被告は本件制御装置の開発費用として約七〇〇万円を負担していたが、本件制御装置については今後原告から繰り返し注文を受けることができると考えて、開発費用を別途原告に請求することなく、右のとおり価格を設定したものである。

(九)  その後、昭和五二年初めころにパイプベンダー本体との調整を経た上、本件制御装置の一号機は、同年三月原告に納入された。制御装置の内容をみると、演算装置には被告製品であるCPU-3形カード(マイクロプロセッサはインテル社製8085を使用)を使用し、ソフトウェアには、OS(オペレーティング・システム)を使用せず、インテル社製8080用アセンブラ言語をベースとした被告のオリジナルアセンブラ言語で東洋ニーモニック(八進)を使用しており、アプリケーションプログラムは、原告の設計したパイプベンダーの動作仕様、監視方法、操作方法に合わせて作成されたもので、本件機能を有するものであって、スプリングバック及び伸びの補正を可能にするプログラムになっていたが、補正のためのデータ自体は被告には知らされていなかった。

(一〇)  更に、本件制御装置はパイプベンダー本体と組み合わせて、調整、テストを重ね、弘済会における立会テストを経て、同年六月初旬、一号機が原告から弘済会に納品された。右製品については、同月一五日付けの日刊工業新聞において「手曲げ機械と同程度の複雑加工ができ、しかも手曲げ機械に要する労力を全面的に省き、生産効率を大幅に引き上げるというコンピュータ内蔵数値制御(CNC)パイプベンダー」として紹介され、さらに、同新聞により同年度の十大新製品賞に選ばれるなど、大きな反響を呼んだ。

(二) 被告が当初の段階で原告に納めていた本件制御装置は、コンピューターボックスが機械の中に組み込まれ、駆動モーターにステッピングモーターが用いられたものであったが、昭和五二年一一月ころ以降は、原告の要求により、コンピューターボックスを自立型のものとし、モーターもDCサーボモーターとする等の仕様の変更がされ(二号機と称されている。)、これに伴い、装置の納入価格も一〇台まとめて注文するという前提で一台当たり一六〇万円とされた。

3  なお、原告代表者は、本件制御装置の開発は原告において行い、仕様書(甲一二)を作成してこれを被告に交付し、被告はこれに基づいて機械的な作業を行っただけであると供述するけれども、証拠(乙一八の一ないし五、証人伊藤)に照らせば、原告代表者において右仕様書(甲一二)を作成したとの供述は採用することができないし、また、前記2(七)に認定したところによれば、右の仕様書も制御装置開発の出発点であるに過ぎず、右仕様書に基づいて制御装置のハードウェア及びソフトウェアを開発する作業は、機械的な作業ではなく、むしろ、マイクロプロセッサを用いた制御装置に関する知識経験を有していた被告の技術によって可能になったとみるべきである。また、本件制御装置の開発費用についても、被告は本件制御装置を将来繰り返して受注することによってその負担した開発費用を回収しようとしたものとみることができるから、原告から被告に開発費用が支払われていないからといって、被告が本件制御装置を開発したものではないとすることはできない。

4  右2及び3の認定説示によれば、本件制御装置の開発に関しては、制御の対象となるパイプベンダー本体及びその制御方法についての情報はこれを開発した原告が提供し、これに基づいて被告が本件制御装置のハードウェア及びソフトウェアを開発したものであり、結局、本件制御装置は原被告が共同して開発したというべきである。

したがって、本件全証拠によるも、請求原因2の事実を認めることはできないというべきである。

三  本件約定の成否について

1  まず、本件約定の成否について判断する。

請求原因3のうち伊藤部長が原告に本件誓約書を差し入れた事実は当事者間に争いがないところ、原告代表者は、被告に本件制御装置の一号機を発注する際、秘密を外部に漏らさないこと及び他社に販売しないことについて被告の伊藤部長と合意しており、これを確認する意味で本件誓約書を差し入れさせたと供述し、証拠(甲九の一、甲四三、四五)にもこれに沿う部分がある。しかしながら、証人伊藤は一号機の受注の際に原告と右のような合意をした事実はないと供述している上、原告代表者の供述によっても、本件約定の合意の当時これを原被告間で書面に作成した事実はないというのであり、また、秘密とすべき事項の範囲や守秘義務違反の効果、存続期間、被告が他社へ売ってはならないとされる装置の具体的な内容等について原被告間で具体的な話合いがされた事実も窺われない。しかも、原告代表者の前記供述は、本件制御装置を開発したのは原告であって、被告は機械的作業によってこれを製造しただけであるとの事実関係を前提とするものであるところ、前記二に認定したところによれば、右の前提は事実に反するのみならず、本件制御装置の開発の経緯に照らして、被告が一方的に守秘義務及び製品の販売禁止義務を負うような合意をすることは不自然であるといわざるを得ない。

そして、原告代表者の前記供述がかなりあいまいなものであることをも併せ考えると、右供述及び前記甲号各証の記載を直ちに採用することはできず、他に本件約定の成立を認めるに足りる証拠はない。

2  そこで、次に、本件誓約書の作成経緯について検討する。

(一)  証拠(甲三、甲四の一、二、乙一四、一九、証人伊藤、原告代表者)によれば、(1) 被告は雑誌「電子技術」の昭和五三年一〇月号に自社の業務についての広告を掲載したが、その内容は、「東洋電機は、テレオートメ時代のツールとシステムを提供します。」との見出しの下に、デジタル式多重電送装置(商品名ミニトロール)及びマイクロコンピュータ(商品名シーケルファイブ)を写真入りで紹介し、その下段において被告が取り扱っている各種システムの一つとして「各種省力化機械制御システム」を掲げ、その例として「パイプ加工演算制御」を挙げていたこと、(2) 原告は、右広告を見て、被告がパイプベンダー用の制御装置を原告以外の会社に販売する意図があるのではないかと考えて、昭和五三年終わりころ被告に抗議を申し入れ、更に、昭和五四年一月四日、新年の挨拶のため来社した被告の取締役システム部長伊藤(従前から原告との取引を担当していた。)に対し、原告代表者が、パイプベンダー用制御装置を他社に販売する意図があるのではないか、そうであれば原告は被告との取引を止めると言って問い質し、伊藤部長は、被告としては右広告は応用例として書いただけであって他社に売るつもりはないと答えたところ、それなら誓約書を書くようにと言われ、その場で、被告の社名入りの用紙と伊藤部長個人名の印章を用いて、原告代表者の指示する内容の誓約書と題する書面を作成し、これを原告に交付したこと、(3) その内容は、「貴社より受注しております、CNCパイプベンダー制御装置の製作に際し得たる装置の考え方、Know Howなど技術的内容について、第三者に秘密を漏洩しない様、充分な配慮を致します。又、他社からのパイプベンダー制御装置の引合があった場合は、貴社の合意を得ない限り、見積及び受注に応じないことを誓います。尚、過去にもこの種の事実がなかったことを報告すると共に、今後も協力して、より良い商品を創り出す所存でございますので、よろしくお願い致します。」というものであったこと、(4)伊藤部長としては、当時はまだ本件制御装置を一〇台程度原告に納入したに過ぎない段階であったので、原告との取引を今後も継続したいと考えており、かつ、本件誓約書の内容に関しては、第一文については、第三者に秘密を漏洩しないことは、商売をする以上当然のことであり、第二文についても、取引が継続している間は他社にパイプベンダー制御装置を販売する意図がなかったことから、これも当然のことであると考えたため、自らの判断で、原告代表者の要求に応じることとし、その場でこれを作成したものであり、その後上司には報告もしていないこと、(5)被告に対しては、昭和五七年ころ千代田工業からパイプベンダー用の制御装置の製造について引合いがあったが、被告は、一社一製品という原則を持ち、取引をしている以上は同種の製品を他社に販売することはしないという営業方針を有していたことから、右の引合いについても原告との取引が継続していたためこれを断わったこと、(6)原告は、昭和五七年四月ころ自ら開発したCRT(ブラウン管)型の制御装置を組み込んたパイプベンダーを販売するようになったが、同時にLED(電光文字盤)型である本件制御装置についても販売を継続しており、そのため、同年七月にも被告に対して本件制御装置を発注し、同年一一月までは被告から本件制御装置を引き取っていたが、その後は、発注をすることもなく、引取り未了の六台のうちの四台については、昭和五八年一月から八月にかけて、被告からの強い働きかけによって引き取ったけれども、残りの二台は、結局引き取らなかったこと、(7)被告は、同年三月には、原告との取引関係が終了したものと判断して、千代田工業からのパイプベンダー制御装置の開発の引合いに応じることとして開発費と製造単価の見積をし、同年八月から同制御装置を同社に納入するようになったこと、以上のとおりの事実が認められる。

(二)  右事実を前提として検討するに、本件誓約書には、被告は原告の同意を得ない限り他社にパイプベンダー用制御装置を売らない旨の記載があるけれども、本件誓約書自体には本件約定の存在を直接確認する文言ないしその存在を前提とする文言が記載されているわけではなく、むしろ、その作成経緯からすれば、本件誓約書は、本件制御装置の発注者である原告から、これを他社に販売するのであれば取引を止めるといわれたために、伊藤部長が、発注者から今後の取引関係を継続していく上で遵守するよう求められた事柄を書面にして差し入れたものに過ぎず、原被告間にもともと成立していた本件約定を確認するため、あるいは本件約定の存在を前提として作成されたものとみることはできないというべきである。

したがって、本件誓約書が作成された事実をもって本件約定の成立を裏付けるものということはできない。

3  以上に説示したところによれば、本件全証拠によるも、本件約定の成立を認めることはできないというべきである。

4  なお、本件誓約書の文言及びその作成経緯並びに伊藤部長の被告における地位によれば、本件誓約書によって、被告は、原告との間で、原被告間の取引関係が継続していることを前提として、被告は原告の同意を得ない限りパイプベンダー制御装置を他社に販売しないことを約したものということができる。そして、右の義務は、原被告間の継続的な取引関係が終了した場合には消滅する性質のものであったというべきであるが、前記2(一)(6)及び(7)に認定した事実によれば、昭和五七年一一月をもって原被告間の本件制御装置に関する取引関係は終了したものというべきであり、原告が昭和五八年三月に千代田工業の引合いに応じて見積をしたこと及び同年八月から同社に対してパイプベンダー用制御装置を販売したことは、右の義務に違反したものではないというべきである。

四  結論

以上のとおりであるから、その余の点につき判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瀬戸正義 裁判官 後藤博 裁判官杉原則彦は、転補につき、署名押印をすることができない。 裁判長裁判官 瀬戸正義)

物件目録

一 パイプベンダー用CNC制御装置

制御対象としてのパイプベンダー機械本体をマイクロコンピューターによりCNC制御する装置であって、パイプの三次元曲げ加工を行う基本動作として「送り」「ひねり」「曲げ」の三軸の動作を制御することにより成り立っている。

二 制御対象

制御対象であるパイプベンダー機械本体は、基本的な構成として、「送り」「ひねり」「曲げ」という基本動作に対応した送り機構、ひねり機構、曲げ機構を備え、さらに、種々の付属機構が設けられることがある。

1 送り機構

直線状のパイプをパイプの軸方向に直線的に送る機構であり、一例として第1図に示すように、パイプの一端を咬持するチャックが搭載されたキャリッジを、後述する曲げ機構に対して、前進又は後退する方向に直線ガイドにより案内し、このキャリッジを送り駆動モータによりチェーン、ラック及びピニオン又はボールネジ等の駆動伝達機構を介して駆動し、キャリッジの移動をアブソリュート方式のエンコーダ、リニアスケール等の位置検出機により検出するものである。

2 ひねり機構

パイプを、パイプの軸の回りに回転させる機構であり、一例として第2図に示すように、パイプを咬持したチャックをひねり駆動モータにより、ベルト若しくは歯車等の回転伝達機構を介して、又は直接に回転させ、チャックの回転をインクリメンタル方式のエンコーダ等の九〇度位相のずれたA、B信号を出力する回転検出機により検出するものである。

3 曲げ機構

直線状のパイプを所定の曲げ半径で曲げ加工する機構であり、一例として第3図に示すように、パイプ曲げ中心を回転中心として回転する曲げ型と、パイプを締めつけて曲げ型の周りを曲げ駆動モータ又はシリンダにより駆動されて旋回する締め型と、曲げ加工中にパイプの横振れを防止する圧力型とからなる曲げ治具を備え、締め型と圧力型とはシリンダによりパイプの軸方向に対して直交する方向に移動し、締め型の回転をインクリメンタル方式のエンコーダ等の九〇度位相のずれたA、B信号を出力する回転検出機により検出するものである。

4 付属機構

付属機構として、例えば、曲げ治具は、曲げ半径が異なり、又はパイプの径が異なるとそれにあった曲げ治具に交換しなければならないが、これを自動的に行う機構が設けられる場合がある。一例として第4図に示すように、この曲げ治具を二段に又はそれ以上の複数段に積み、パイプを相対的に上下及び左右に移動し、異なる曲げ半径に曲げ加工するものである。

また、曲げ加工する際に芯金を挿入することがあるが、この芯金の着脱又は挿入を自動的に行う機構が設けられることがある。

三 制御装置のハードウェア

パイプベンダー用CNC制御装置は、第5図に例示するように、CPU(マイクロプロセッサ)、ROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)を論理演算回路の中心として構成され、外部と入出力を行う入出力回路、ここではキーボード入力回路、パネル出力回路、本体入力回路、本体出力回路、テープレコーダ入出力回路等とをコモンバスを介して相互に接続して構成されている。

四 制御装置による制御内容(ソフトウェア)

パイプベンダー機械本体の仕様に合わせて製作されるが、前記送り機構、ひねり機構、曲げ機構の制御が中心となる。

1 送り制御

キーボードから入力されたパイプ送り量に応じた駆動信号を送り駆動モータに出力してキャリッジを移動し、アブソリュート方式の位置検出機からの検出信号を入力し、キャリッジの位置を制御するフィードバック制御である。

2 ひねり制御

キーボードから入力されたパイプひねり量に応じた駆動信号をひねり駆動モータに出力してチャックを回転し、インクリメンタル方式の回転検出機からのA、B信号を入力し、両A、B信号から回転方向を判断すると共に、両A、B信号の矩形波からそれぞれ立ち上がり及び立ち下がりのパルス信号を求め、両パルス信号を加えて二倍の分解能の信号を得て、ローパスフィルタにてノイズを除去し、チャックの回転位置を制御するフィードバック制御である。

3 曲げ制御

キーボードから入力されたパイプ曲げ量に応じた駆動信号を曲げ駆動モータ又はシリンダの制御バルブに出力して締め型を曲げ型の周りに旋回させ、インクリメンタル方式の回転検出機からのA、B信号を入力し、両A、B信号から回転方向を判断すると共に、両A、B信号の矩形波からそれぞれ立ち上がり及び立ち下がりのパルス信号を求め、両パルス信号を加えて二倍の分解能の信号を得て、ローパスフィルタにてノイズを除去し、締め型の移動位置を制御するフィードバック制御である。

4 付属機構の制御

機械本体に設けられた付属機構の仕様に応じた制御が行われる。

五 その他の制御(ソフトウェア)

前記四の制御以外にも、パイプの曲げ加工の効率、精度、操作性という点から、多くの特徴ある制御を行うことができる。

1 ひねり原位置復帰制御

ひねり機構に、回転するチャックの所定位置でオン、オフされる原位置検出スイッチを設け、この検出スイッチの位置を原点とし、一本のパイプの加工開始ごとに自動的に原点にチャックを復帰させる制御である。

2 交互運転制御

予めそれぞれ異なった形状にパイプを曲げ加工する所定数の工程からなる加工データを複数RAMに記憶させておき、予め設定された所定本数のパイプを加工すると、複数の加工データのうちの一つの加工データを、加工データの記憶エリアに順次転送する制御である。

3 割込ソフト

予め定められた動作順序のプログラムに送り、ひねり、曲げの各機構の動作を行わせるプログラムを割り込ませてプログラミングできるようにしておき、加工不能になるような場合には、前記の動作順序を任意に変更して干渉を避けながら目的のパイプ加工を行う制御である。

4 ブースタ移動量指定制御

パイプ曲げ加工を行うときに、ブースタ機構にてパイプ外側を曲げ方向に押出すことによって、曲げ内側のしわの防止と外側のパイプ肉厚の減少を防止することができ、かつ、曲げ部の管断面の偏平率を良好に保持できる。

5 XYZデータからPRBデータへの変換制御

パイプ加工図面から、パイプ先端をXYZ座標の原点とし、パイプ中心線の交点をXYZ座標のデータ(XYZデータ)で制御装置のキーボードよりキーインすると、キャリッジによるパイプの送り量(P)、チャックの回転によるパイプのひねり角度(R)、締め型によるパイプの曲げ角度(B)のPRBデータへの変換を実行する制御を有している。これにより、XYZデータをキーインすることによって直ちにPRBデータが得られ、自動加工ができる。

6 逆曲げ演算制御

XYZデータよりPRBデータを計算するとき、一方向の曲げ順序のPRBデータを計算するのみならず、XYZデータをキーインしたときに原点としたパイプの先端と反対側のパイプの端を原点として、逆方向からの曲げ順序もPRBデータで計算する制御である。

7 円弧ピッチ方式のPRBデータ計算制御

XYZデータよりPRBデータへ変換する場合に、円弧長と直線ピッチ長との合計データを送りピッチとして計算表示する機能である。

8 スプリングバック補正制御

予めいくつかの曲げ角度について試し曲げして得たスプリングバック量と曲げ角度のペアのデータをキーインすることによって、任意の曲げ角度についてスプリングバック量を直線補完計算し、曲げ加工時に自動補正する制御である。

9 伸び補正制御

前記8のスプリングバック補正制御と同様に、スプリングバック量に代えて曲げ加工時に生じる伸び量を補正する制御である。

10 位置決め誤差確認制御

目標位置に移動後に予め定められた誤差範囲に入ったことを確認して初めて次の動作に移る確認制御である。

11 誘導式操作制御

操作者がキーボードを操作する場合に、操作者が次に何をしなければならないかを表示パネルに表示して、操作者に指示する制御である。

12 自動一時停止制御

プログラミングの際に、予め所定の工程に加工データの一部として一時停止データを入れ、自動運転時にその一時停止データの箇所まで実行されると、その場で停止する。

13 ローディング位置指定制御

パイプの曲げ加工終了後、自動的にキャリッジを予めプログラムされた位置に移動する制御である。

六 制御モード選択

操作者は、キーボードを操作することにより「手動」「XYZ」、「PRB」「自動」の各モードを選択することができる。

1 手動モード

各機構をプログラムに関係なく手操作にて動作させるモードである。キーボード内の各機構に応じた押しボタンを押すことにより、各機構を予め設定された速度で各機構を操作できる。

2 XYZモード

パイプ加工を行う順序を設計図面よりパイプ中心線の交点をXYZ座標でキーボードから工程順に入力するモードである。

3 PRBモード

パイプ加工を行う順序を前記のとおり送り、ひねり、曲げの各機構の移動量、回転量で直接工程順に入力するモードである。

4 自動モード

パイプ加工を前記XYZモード、PRBモードで設定された工程順に従って、送り、ひねり、曲げの各機構を自動的に連続して制御するモードである。

第1図

送り機構

<省略>

第2図

ひねり機構

<省略>

第3図

曲げ機構

<省略>

第4図

パイプ上下、左右機構

<省略>

第5図

<省略>

パイプベンダー用CNC制御装置販売台数一覧表

期 期間 納入台数

四四 昭和五八年八月~昭和五九年三月一五日 三三

四五 昭和五九年三月一六日~昭和六〇年三月一五日 九七

四六 昭和六〇年三月一六日~昭和六一年三月一五日 六七

四七 昭和六一年三月一六日~昭和六二年三月一五日 七四

四八 昭和六二年三月一六日~昭和六三年三月一五日 九五

四九 昭和六三年三月一六日~平成元年三月一五日 一三一

五〇 平成元年三月一六日~平成二年三月一五日 一一三五一 平成二年三月一六日~平成二年九月三〇日 六六

五二 平成二年一〇月一日~平成三年三月三一日 三二

五三 平成三年四月一日~平成四年三月三一日 四七

合計台数 七五五台

別紙1 第一図

(開発手順)

<省略>

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